隠居たるもの、新春を寿ぐことに余念ない。謹賀新年である。

生前の母は、正月に「労働」することを禁じた。正月に働くと「いつものべつまくなしに働いてないとならない浅ましい人間になってしまうから」とその理由を語った。正月だけは誰もが休む時代だった。学なんかないけど、働き者でありながら精神的な余裕のある素敵な人だった。その教えを守り、いそいそと旅に出ることもなく、ゆるゆると近場で遊ぶのが私のお正月で、もちろん今年も同様である。

元旦はこうして過ごす

目がさめるのにまかせて起床、夫婦で新年の挨拶を交わしゆっくりと朝食をとる。準備が整ったらまずは墓参。両親が眠る墓所は南に歩いて15分ほど。庵を構える深川は寺町だ。1657年、明暦の大火で江戸の大半が灰に帰し、大規模な都市改造が施された。その際に多くのお寺さんが隅田川を超えてやってきて、お互いに密集する一角を作った。たやすく赴けるところでないと墓参が億劫になるし、数が多いから墓所もそれほど高価でなかったし、父は墓に入ることを望んでいたし、そんなこんなで母が亡くなった時にここに買い求めたのだ。その際に面接試験があった。乱暴なことをされても困るから釘を刺す必要もあるのだろう。

「うちの浄苑を望む理由を述べなさい」と問いただされたので、

「まずは檀家にならなくても良いということです。それともう一つ。私は中学高校と浄土宗系の学校に通っておりました。信徒というわけではありませんが、その教えには馴染んでおりますゆえ。」と答えた。

「どちらの学校だね?」「どこそこ学園です。」

「合格。いいよ、うちを使って。」

面接はあっという間に終了した。ご住職は先輩だった。父が亡くなった時、できるだけの便宜をはかってくださった。散歩がてら、月に一度は墓参に出向く。

イニエスタを観に行く

例年はテレビで観戦する天皇杯決勝である。近所の友人に「イニエスタが観れそうだから」と誘われて、今年は会場に足を運ぶことにした。イニエスタ、貫禄である。ピッチ全体が見渡せると、彼がいかにサッカーを知り尽くしているかがわかる。大して走りもしないで、なのにいて欲しいところに必ずいて、涼しそうに難しいことをする。引退するビジャもピッチに立って、順当にビッセル神戸が初のタイトルを獲得した。そして、このゲームは新しい国立競技場のこけら落としでもあった。

従前の国立競技場は、私が生まれた年にできあがり、さんざっぱらサッカー観戦に訪れたまさに聖地であった。1979年FIFAワールドユース、大活躍した19歳のマラドーナを何回もここで観た。はたして新しい国立競技場はどうだろうか。率直な感想を述べると、狭い。客席の勾配が高く観やすいけれど、通路の幅やトイレの配置などが収容人員に見合っておらず、以前のスタジアムに比較して著しくストレスが溜まる。体の大きな外国の方々は、オリンピックの時にさぞや困るだろう。また「47都道府県の木材を使用」と謳っているが、それは「目に見える部分」であって、「目に見えない部分」には東南アジアからの熱帯材が使われていて、熱帯雨林と先住民の生活を破壊し、例のごとくこの国では報道されることはないが、抗議され非難されていることは併記しておきたい。(参考:東京五輪施設建設の「目に見えない部分」に、21万畳分の熱帯材が使われている!? https://hbol.jp/204678

一年に一度のすき焼き

元旦の夜に、友人たちとすき焼きをすることをここ数年の恒例にしている。この料理を口にするのはこの日だけだ。一緒にサッカー観戦に赴いた友人たちが、いったん帰宅してマイミートとボトル2本を持参して我が庵にやってくる。もう一人も発泡赤とマイミートを下げて最後にやってきた。5人で牛肉が合計1150グラム!順繰りに食べるとそれぞれに美味しく、「一年に一度で十分、ありがたみが増す」と舌鼓をうつ。消費された卵は12個。4本のボトルを飲み尽くし、足りない者はウイスキーやらテキーラやら。お腹いっぱいで、来年はもう少し肉を減らすべきと確認し合う。レコードをかけながら、今年も親しい人たちと愉快に新年を迎えることができた。

TUMBLING DICE

今年のテーマは「TUMBLING DICE」である。言わずと知れたThe Rolling Stonesの名曲から。「Everything is in its right place.」と考えをまとめて整理したのは昨年のこと。それをもとに、今年は「ダイスを転がせ!」、そう賽を投げるのである。夏には形になっているだろうと思う。あ、サッカー観に行くのに気が急いて、先輩がご住職を務めるお寺さんに詣でるのを忘れている…。でも大丈夫、まだお正月はつづく。

ああ、もうすぐ隠居の身。今年もよろしくお願い申し上げます。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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