隠居たるもの、“古いやつこそ新しいものを欲しがるものでございます”。鶴田浩二「傷だらけの人生」冒頭の一節である。庵を構える清澄白河は古くからの下町だ。それがこの5年くらいのことだろうか、降って湧いたように「コーヒーの聖地」になったり、そうするとあらためて東京都現代美術館が立地することが気づかれて「アートの街」と注目されたり、そしてなにやら忙しく新しい店ができる。かつては運河に面した水運の拠点で今は使われなくなった空き倉庫が多かったから、とか、川を渡ったら中央区で考えてみれば都心から目と鼻の先だったから、とかいろいろ評される。暮らす者からすればありがたいことで、散歩の道すがら興がそそられてそんな新しい店に入ってみることも茶飯事だ。

モダンな中華 O2 の夜

我が庵から歩いて1分30秒の地点に女性オーナーが営むワインカフェがあった。そこで酒を酌み交わす近隣の友人が何人もできた。その店は、繁盛していたにもかかわらず11月24日をもって8年弱の歴史に幕を閉じることになった。オーナーは郷里に帰るという。友人のひとりが発起して、オーナーのいわゆる“送別会”をすることとなり、2018年3月にオープンしたO2が会場であるとLINEで案内を回した。ミシュラン東京2020でビブグルマンに選出された評判の中華だ。12人と乳幼児1人が集い、料理はさすがに美味しく、親密で名残惜しい夜となった。

O2のオーナーシェフは大津さん

オーナーシェフの大津光太郎さんはもともと地元の子、“送別会”を発起した友人の小学校中学校の同級生だ。店名の由来はもちろん自身の名字を置き換えたものだが、店内に散りばめられたグッズを見るにつけ、スターウォーズフリークであるシェフが、C3POやR2D2になぞらえたことがうかがえる。同級生である若い友人に連れられて、彼が以前に勤めていた赤坂のモダンチャイニーズの名店に出向いたこともあるし、O2開店の準備時期で腕をふるう店がなく、フジロックでホットドックを焼いていたところで顔を合わせたこともある(ホットドックは売り切れていた)。開店後のO2には1度しか訪れていないものの、両親の墓参に向かって店の前を通りかかった時に、仕込みをしていたのだろうか、彼が私を見つけそれとなく目礼をしてくれたときはうれしく思ったものだ。

大津くん、腕を上げた?

下仁田ネギと中華ハムのスープ、秋刀魚とマコモダケの香り揚げ 特製ハーブソース、上海蟹の老酒漬け、上海風フカヒレの姿煮、シメの担々麺、等々、どれも深くてとっても美味しかった。「下町でその値段設定はどうよ」と言う人は多いけれど、30代後半のシェフから調理法を聴くにつけ、食材もさることながらそれほどの手間がかかっているならば仕方がないとあっさり降参する。修業のレベルが違う。なかなか予約がとれないはずだ。頻繁にうかがえるようなお大尽ではないが、ソムリエだっているし気取りたいハレの日にまた来ようと強く思う。わざわざ銀座や赤坂に行かなくても、ふらっと歩ける距離に懇意にできるこんな店があるのはとても喜ばしいことだ。

古いやつだとお思いでしょうが

その夜、O2に出向く前にちょいと下地をつけていこうと立ち寄った店がある。O2から少し東にあるクラフトビールのフォークウェイズ ブリューイングだ。大津さんに店に着くなりそう伝えると「近頃、フォークウェイズさんに寄ってからうちに来るお客さん、多いんですよね」とのこと。そうなのか…、なんかわかる。ということで次回はフォークウェイズ ブリューイングを省察しよう。

ああ、もうすぐ隠居の身。“古いやつこそ新しいものを欲しがるものでございます”。

*中国料理&ワイン「O2」https://o2otsu.wixsite.com/o2info https://www.facebook.com/O2kiyosumishirakawa/

フォークウェイズ ブリューイング
投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

古い町の新しいお店:清澄白河のモダンな中華 O2 の巻件のコメント

  1. 鶴田浩二さんの耳に手を当てるポーズを想いだしながら読ませていただきました。

    髙橋秀年

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