隠居たるもの、この冬も準備万端ゲレンデに立つ。私たちは2021年12月14日火曜日、昨年と同様に八方尾根スキー場でシーズンインを迎えた。その前日である13日の「日中を通して雪」との天気予報ははずれ、これといった雪の積み増しはなかったものの、風も穏やかで朝からスッキリ晴れ渡る絶好の日和となった。しかし各スキー場から散種荘の近くまでシャトルバスが迎えに来てくれるのはもう少し先のこと、それに加えてシーズンチケットを購入した岩岳スノーフィールドのオープンは12月17日、ゆえにシーズンインに際しては、昨冬同様に最も近い「我が裏山」八方尾根をチョイスしたというわけである。

「ケーブルにぶら下がって降りてきたんじゃあ、それをスキーとは言えないよ」

このところ度々にかちあう、現在70歳で若い頃は競技スキーをしていて、気候変動のため孫たちが思う存分にウィンタースポーツができなくなっている現状を常に憂いている、くしを通すことが滅多にないような髪型をしたタクシー運転手さんが、私たちを八方尾根スキー場ゴンドラ乗り場まで届けながらそう言った。オープンしたとはいえ滑れるのは上の方だけで(八方尾根スキー場でいえば、兎平というあたりから上)、まずはゴンドラに乗って登り、滑り終えてもゴンドラに乗って降りてこなければならないこと(彼はそれを「ケーブルにぶら下がって」と揶揄している)を嘆いているのだ。上の方の積雪は66センチ、下の方にはまだ雪がついていない。運転手さんによると「自分が若い頃は必ず11月に滑り出すことができて、12月には山の下までしっかりと雪がついた」そうだ。運転手さんのぼやきは続く。

「スキー人口も減っていて、この冬も外国からの客を期待できなくて、その上に気候変動で滑れる期間も短くなっているのに、色々あるんだろうけど何を考えてんだか…。白馬のすべてのスキー場(栂池、乗鞍、八方尾根、岩岳、47、五竜、さのさか、ごく近隣に主要なもので7つもある)で使える全山共通のシーズンリフト券を作ればいいんだよ。白馬の魅力をみんなして発信してお客さんを呼び込む努力をしないで、少なくなったお客さんを奪い合ってどうしようってんだか、共倒れになるだけなのなのにさ」まったくもってその通りだ。そうしたシーズン券があれば、少し高くたって(結局は安くつくから)私たちは間違いなくそれを購入する。せっせと白馬に通ってくるスキーヤー・スノーボーダーも増えるだろう。しかしここは運転手さんの怒りを少しなだめようと思って「でも長野県はがんばってますよ。県内すべてのスキー場で、嬉しいことに平日に限るとはいえリフト一日券の代金半額を補助してくれます」と話の方向を少し変えてみた。

https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoshin/welcomeshinshu_activitywari.html

そうなのだ、12月13日正午から(3月15日まで)長野県は「この冬どこ行く?ウェルカム信州アクティビティ割!」なるものをちょうどよく展開し始めた。これを使えば一人分のリフト券代で二人が滑れる。この日は12月17日までのアーリーシーズン料金4,500円X2=9,000円が、半額の4,500円になった。往復にタクシーを使ったところで元がたっぷりとれるものだから、罪悪感をどこかしらに感じることなくこうして運転手さんのぼやきを聞いている。しかしそれに対する彼のブレない答えが小気味良い。「でもね、繰り返すけどさ、ケーブルにぶら下がって降りてきたんじゃあね。そんな雪なら半額のそのまた半額でいいくらいだよ。」

「この冬どこ行く?ウェルカム信州アクティビティ割!」を教えてくれたのはFULLMARKSの兄ちゃんだったのだ

昨冬は長野県民だけを対象にしてやっていたのだそうだ。「県をまたぐ移動の自粛」を要請していたのだから当然だろう。その限定は解かれ、この冬に対象は利用者すべてに拡大された。スマホで事前に手続きし決済しておいて、スキー場のリフト券売り場でそれを見せれば、係の人の簡単な操作を経て、リフト一日券に引き換えられる。後日、集計した長野県が各スキー場に正規の金額を振り込む。県の予算が底をついたところでキャンペーンは終了。長野県のレジャー産業を俯瞰した、なんと素晴らしい振興策であろうか。そして簡便にして合理的、デジタルってこう使うんじゃあないの?つれあいが予約していたウェアを引き取った12月10日、FULLMARKS白馬店の店長がこれを教えてくれた。グッドタイミング。リフト券売り場で初めて知ってその場で慌てて登録して購入する若者たちを尻目に、前日に購入を済ませている初老にさしかかった私たち夫婦は、颯爽と風のようにリフト券を手に入れ、そしてゴンドラに乗り込んだ。

雪が降るのを待ちわびて

それに引き換え、迷走する「子育て世帯への臨時特別給付金」である。白馬村にほど近い長野県のある村は、好きなようにできるとなったら早々に現金で一括給付することを決定した。理由は「我が村にはクーポン券を使える店がないから」という笑ってしまうほどにわかりやすいものだった。浅はかな者にかぎって、頭がいいことを見せようとトリッキーなことをして得てして頭が悪いことを露呈してしまう。兎にも角にも、私たちは1本1本ターンを確かめながら、いささか固い雪の上で今シーズン初滑りを楽しんだ。うまいもんだ、大丈夫、まだまだやれる。シーズン券を手に入れたくらいだからメインは岩岳になろうが、シャトルバスに乗って「信州アクティビティ割」を使いに各スキー場にも足を運ぶだろう。帰り道、雲ひとつないあまりの晴天について、これまた馴染みの(やはり70歳近くになられるのだろうか)タクシー運転手さんと語り合った。彼はこう言った。「12月にこんなに晴れてもらっちゃあ困るんだよな。せめて曇りじゃないと。お日様に照らされて雪が溶けちゃう…」ああ、もうすぐ隠居の身。白馬ではみんなして雪が降るのを待ちわびている。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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