隠居たるもの、若いもんに門戸を開く。散種荘を訪ねてきたお初の客は、なにを隠そうメロン坊やご一行様であった。メロン坊やの母親、つまりは姪の勤務先である縁を頼ってダイワハウスに建築をお願いしたわけだから、完成なった散種荘に彼らが視察を兼ねて早々にやって来るのは明々白々のことであった。レンタカーでやって来た3人がこちらに滞在したのは合計で48時間と少し、「密」になる場面がまるで見当たらない季節外れの白馬である、その間だけにしても、彼らはゆっくり心身ともに羽を伸ばす時間を持てたのではないだろうか。

そもそも「メロン坊や」の由来

「メロン坊や」、私がこの姪孫(てっそん)をそう呼ぶようになったのは今年5月からのことである。当時の省察「メロン坊や、焼肉は君にはまだいけないな。」(https://inkyo-soon.com/melon-boy/)にはこう記されている。

「熊本で暮らすつれあいのご両親が、今月に入って大きなメロンを送ってくださった。… このメロン、私たちの近所に暮らすサッカー部後輩と姪の若夫婦、つまりご両親からすれば孫夫婦の家にも届いている。ここに育つ、この世に生を受けて8ヶ月になる姪孫はずりハイをおぼえている真っ最中。… メロンが届き、箱が開いて甘美な香りが漂ったその時、甘い蜜に誘われた彼は、父親のジャージを引きずりながら香りの元に突進し、箱の端に手をかけ上体を起こして標的を覗き込み、そしてニンマリと笑った。配信されてきたその瞬間の写真を見るにつけ、その笑顔とメロンのまん丸具合があまりにも『瓜ふたつ』で、私はこの子のことをそれ以来『メロン坊や』と呼んでいる。」

「どぅえいどぅえい」と「あーい」と「バピ」と「おいちー」

たった2週間前の出来事を紹介した「色づく木場公園でメロン坊やが真実を明るみにさらす」(https://inkyo-soon.com/melon-boy-exposes-the-truth/)において、「『あっ!』のひと言ですべてを表現する1歳2ヶ月のメロン坊やである」と紹介した。それがだ、この2週間ほどで信じがたいほどに成長しているではないか。2足歩行もすっかり板につき、そればかりかちょっと見ぬ間に語彙まで増やしている。母親が食事をさせたい時に「ご飯を食べるひと〜」などと呼びかけると、左手を挙げて「あーい」とレスポンスを返す。なにかを訴えかけているのだろうか、気がつくと真剣な目で「どぅえいどぅえい」と話しかけてくる。それも内容に応じてなのだろう、時によって微妙に抑揚が違っていたりする。これは幼児期の男の子に特有なことなのだろうか、特殊車両が好きで、中でもバスに目がない。だからバスのミニカーがお気に入りのおもちゃだ。走らせることはせず、握りしめているのだけれども…。「バス」とはまだ発語できず、つい可愛く「バピ」になってしまう。中でも驚いたのは、完璧なタイミングで「おいちー」と口にしたことだった。

メロン坊やは「違いのわかる男」

「七輪でかますを焼く」(https://inkyo-soon.com/shichirin/)に刺激された姪が「やってみたい」と言う。天気予報にあたると、空模様・気温からしてかろうじてできそうな昼が滞在中にあったから、その日の昼食を「七輪パーティー」とすることにした。食材を調達しに馴染みのスーパー A-COOP白馬店に出向くと、つれあいがまたすごいものを見つける。小谷村の太田さんが手間暇かけて原木で育てたびっくりするほどに大きい生椎茸だ。七輪で焼いて醤油を垂らしてみると、香りたつほどに美味しかった。メロン坊やのためにバターロールも焼いてみる(写真で椎茸の横にあるのがそれ)が、彼が「食べさせろ」と指さしたのは椎茸の方だった。小さく切ったものを冷まして口に入れてやると、彼はニンマリと会心の笑みを見せた。

snow peak というメーカーにシンパシーを抱く若夫婦とともにsnow peak LAND STATION HAKUBA に出向き、そのままレストラン「雪峰」で夕食をとったときのことである。(これで3度目の訪問だ。参照:「浅見さんの卵とレストラン『雪峰』」https://inkyo-soon.com/sanshuso-dining-table-2/)私たち夫婦は夕食で炭水化物をほとんど摂らない。若夫婦はメロン坊やのために子供用のカレーを、自分たちのために土鍋の地産キノコ炊込みご飯を注文した。メロン坊やはカレーになびかない。「こっちなら食べてもいいよ」とばかりに視線を送った先にあったのはキノコの炊込みご飯だった。カレーのほとんどは若夫婦が食べることになり、炊込みご飯を小さなさじにとって母親がメロン坊やの口に入れてやる。彼はまたしても会心の笑みを浮かべるのだが、それだけでは終わらなかった。一拍おいてから、驚くことに「おいちー」と発語したのである。1歳2ヶ月と10日にしてキノコの旨味がわかるなんて…。さらに、デザートに注文したプリンを食べさせてみると、ただ笑うだけでなく、あろうことか「幸せ、ほっぺたが落ちそう」というポーズをとったのである。この子は天才に違いない。

「散種荘のメロン坊や」

オーティス・レディングの名盤に「ヨーロッパのオーティス・レディング」というライブレコーディングがある。原題は「OTIS REDDING LIVE IN EUROPE」だ。「オーティス・レディング ライブ・イン・ヨーロッパ」としたっていいところを、あえて「ヨーロッパのオーティス・レディング」とつけたこの邦題が好きだ。それにあやかって、恥ずかしくも大叔父馬鹿が全開である。もちろん、薪ストーブに近づかないよう完璧なシフトを敷いた。そしてたっぷり遊んだ。姪によると、メロン坊やもいつになく興奮してテンションマックスだったようで、活発に動き回ってからに彼らの想定を超えて衣服を汚したそうだ。「わんぱくでもいい」と表明してしまった大叔父は洗濯係であるから、滞在中に喜んで洗ってさしあげた。姪孫たちよ、これからも遊びにおいで。ああ、もうすぐ隠居の身。おもしろい事をたくさんしよう。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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