隠居たるもの、まかせたからには待ち侘びる。アオゾラカグシキ會社にオーダーしたリビングセットが出来あがった。昨年の春にカマをかけ、秋あたりから図面に落とし、それに合わせてダイワハウスと打ち合わせ、年明けてようやく発注、3月から何回かに分けて随時に代金を払い込み、可能な範囲でサイズの微調整を相談しながら、1年半かけてようやくお披露目となったのがこの2020年10月3日。予想に違わず、ものの見事に美しい家具だった。(参照:「アオゾラカグシキ會社で家具をつくる」https://inkyo-soon.com/aozorakagu/ 2020年2月2日省察)

風を待つベンチ

発注したのは合計6点。定番の「風を待つベンチ」、同じく定番の1人がけ「青空ソファ」2脚、それに合わせた「木のオットマン」2脚、そしてこのために満を持して設計された唯一無二のオーディオラック。

まずは「風を待つベンチ」である、清澄白河のショウルームで目にするなり即決した。ダイニングで使ってもよし、ウッドデッキでそれこそ「風を待つ」のもよし、玄関すぐの土間に腰掛けとして置いて、ふたり並んでスノーボードブーツを履くのもよし、山の家ではとかく使い勝手がいい。とりあえず土間に置いてみる。このベンチの高さも考慮して穿(うが)った窓からの緑に映える。ブラックチェリーがとても美しい。

撮影:アオゾラカグシキ會社 友繁さん

「青空ソファ」と「木のオットマン」

「大きな森の小さなお家」である、家具にデカい顔をされるのは業腹なもんで、当初からドンとしたソファを置かないことにしていた。軽やかに間を通り抜けることができる1人がけソファこそがここにふさわしい。木で骨組みされたものであれば、すかして窓の向こうも見えるからなおさらにヌケがいい。そんなことを目論んで、これもショウルームで目にした「青空ソファ」を基に考えた。こちとらさほど身体が大きくないから、定番サイズの幅をいくらか狭くしてもらって、逆に首をもたせて支えてもらいたいから背の高さを少し上げてもらう。来客が多い時にはスツールにもなるオットマンは、足を延ばすよすがとなって「ゆったりしている感」を倍増させる。これらもブラックチェリー、クッションはシンプルに薄墨色にしてもらった。窓の外の彩りが豊かなのだから、室内はシンプルでいい。

撮影:アオゾラカグシキ會社 友繁さん

ウォルナットのオーディオラック

そして、オーディオラックである。フローリングには明るい無垢のオークが貼られていて、壁紙は白、このラックに配置する機材は各々こんなもので、設置する場所の周囲には窓がこんな風、収まる機材のリモコンすべてを放り込むために同じ素材の小さな箱もこしらえてほしい、打ち合わせでそうした説明をしたところ、友繁さんは「ウォルナットにします」ときっぱり断言した。実は半信半疑だった。「明るい色合いの中に濃いウォルナット、浮いてしまうのではないかしら?」そう危惧したのだ。ところが、さすがに餅は餅屋。金属的なシルバーおよびブラックを基調にしたステレオセットと、明るいオークのフローリングの間に割って入って、濃いブラウンのウォルナットは見事な橋渡しをしているではないか。

撮影:アオゾラカグシキ會社 友繁さん

ダイワハウスに注文してあったことがある。オーディオラックに配置する機材で電源を必要とするものはすべてで8台、タコ足配線はしたくない、だから予備も含めて10個のコンセントを設置してほしい、ついては壁にピタッとつけるラックの箱の中にそのすべてが隠れて外からは見えないようにしてほしい。そうすればこんがらがるコード類までを含めてすべてが筐体の中に収まる。友繁さんにももうひとつ、すぐ横に置くサブウーファーの電源コードとケーブルが暴れることがないよう、向かって右側面にそれらを通す小さな穴を一箇所だけあけてほしい、そう頼んでいた。配線して設置してみる。コード類の気配がない。してやったりだ。

桃源郷のような音が鳴る

プライマル・スクリーム、トム・ヨーク、ジョン・リー・フッカー…、目論みを遥かに超えた音が鳴る。「インプットをセレクトしてボリュームを調整するのがプリメインアンプの仕事」とばかりに、限られたつまみしか持たずどっしりと構えるDENONのアンプ、惚れ込んだだけあって頼もしい。しかし、それだけではない。フライングしてまずは庵に迎えられたTechnicsのレコードプレイヤーとTEACのネットワークプレイヤー、そしてようやく活躍の場を見出したB&Wのスピーカー、それらをつなげているケーブルだ。5月末くらいのこと、近所の好事家の友人の家で飲んでいた。ひょんなことから山の家のステレオ環境の話に及び、「これからケーブルのことを考えなきゃならない」私はそう口にした。彼は違う部屋に行き、ゴソゴソしてなにやら箱を持ってきたかと思うと、それを開いてこう言った。「好きなものを選んでください。」そこには、使っていない自作高級スピーカーケーブルがぎっしり詰まっていた。アオゾラカグシキ會社のオーディオラックの裏で、10月4日にせっせと配線したケーブルは、必要な本数とそれぞれの長さを彼に伝えて作ってもらったものである。ぶっとい信号が通るのももっともなのだ。

フローリングのことを忘れてはいけない

オーディオラックを置く1階のフローリング材は、音楽を通じて仲良くなった近所の若い友人から譲ってもらった特別な材だ。ちょいと名前の通ったフローリング施工会社を経営している彼は、ある大きな地方都市の公営芸術劇場舞台フローリングの仕事を請け負った。その上にオーケストラが立つような舞台だ。材料はそのために特注したものだという。仕事は春に滞りなく終わり、いざという時に備えて余分に抱えていた高級な材料も宙に浮く。すると「使うところもないんで」と破格で譲ってくれた。そんな出自のフローリングを貼った散種荘は、トイレとサニタリー以外に扉がない、いわば吹き抜けた2階建ての大きなワンルームで、ダイワハウスの造作だから密閉性が高い。大袈裟にいえば、コンサートホール並みのスペックを持っているのである。スピーカーから直接前面に音が流れるのではなく、オーディオラックの一列後ろから、小さな家全体に桃源郷のような音が響き渡る。私を含めた音楽好きの友だちたちが寄ってたかって形にした音だ。それをど真ん中でまとめているのが、アオゾラカグシキ會社のオーディオラックなのである。友繁さん、これ、最高傑作じゃないか?いやいや、そんなこともないか…。ああ、もうすぐ隠居の身。少なくとも私にとっては最高傑作に違いない。

追記:アオゾラカグシキ會社ホームページはこちら。 https://www.aozorakagu.com/ もちろん、格安なわけではないけれど、ブランド家具、有名インテリアショップに置かれた品物からしたらずっと安い。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

アオゾラカグシキ會社のオーディオラック件のコメント

  1. 素敵です

    髙橋秀年

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