隠居たるもの、塞いでばかりはいられない。なにやら重いものがどんより頭の上を覆っているような、どうにも気の晴れない嫌な時節柄である。いまだ隠居にたどり着いていない我が身、勤め先より「今般の状況に合わせて出退勤に変更を施す」旨の案内を受けた。「始業時間と終業時間をそれぞれ30分遅らせる」んだそうだ。笑ってしまった。真剣に考えてる?というか、どこもかしこもオフピーク通勤にしてるんだから、その時間の方がかえって混雑するでしょうに…。

朝、春の陽気の中を歩く

朝の通勤時間帯、利用する東京メトロ半蔵門線には最寄りの清澄白河駅が始発となる便が少しだけある。大変に幸いなことで、毎朝それに乗れるよう準備を整える。新型コロナの不安が浮上してからというもの、「乗れるよう」を「必ず乗る」にレベルアップし、混雑する電車を回避してきた。出社時間がうしろに30分ずれると始発便はなくなる。「早く出勤する分には構わないのだから、変わらずそれに乗ればいいじゃないか」というご意見もごもっともであるが、そもそもそんな殊勝なタチにできていないし、どうしたものだろうと思案した。私が暮らす深川は実は都心から近く、日本橋までの通勤時間は地下鉄を使って25分、歩くとしても45分にしかならない。せっかく恵まれた環境にあるのだから、混雑した電車に乗ることを100%回避するべく、10分ほど余分に家にいて、それから歩いて出社することにした。冷え冷えとした昨日からうってかわって、いささか風があるものの今朝は春のように暖かく、徒歩通勤には絶好の日和であった。

10分ずらしたエレベーター

少し時間がずれただけで、集合住宅エレベーターの乗客というものは変わるものである。普段の朝に顔を合わすことのない、保育園に向かう親子づれ何組かとご一緒する。時節柄であるから子供たちとハイタッチすることは差し控えたが、他愛ない世間話のやり取りが一日の始まりになんともふさわしい。運河である小名木川の遊歩道を隅田川に向かい、清洲橋を渡って中央区に入る。誰かと濃厚接触する危惧がないからマスクはしていない。依然と貼られている元IR担当副大臣のポスターをあちこちに見かけ幾分は忌々しくも思うが、大きく吸い込む朝の空気が脳を活性化し心持ちを清々しくしてくれる。

閉められた小学校の門

勤め先までにふたつの小学校の前を通りかかった。中央区立有馬小学校と日本橋小学校。両校とも門は閉ざされていた。朝日新聞の今日の朝刊「声」欄に掲載されていた神奈川の小学校6年生の投書を以下に引用したい。

「安倍総理大臣様

 ぼくは、小学6年生です。あと少しで小学校を卒業するという時になぜ、新型コロナウイルスで学校を臨時休校にするのですか。ニュースでは、東京オリンピック・パラリンピックはやる予定だと言っていました。なぜオリンピックはやって、学校はだめなのですか。

 オリンピックも大事ですが、今のぼくは、学校で友達と勉強したり、遊んだり、給食を食べたりすることの方が大事です。6年生の勉強は、どうなりますか。まだ、習っていないこともあります。中学で初めての先生から教わるのですか。

 ぼくの周りには、ウイルスにかかった人はいません。みんな元気です。子どもたちを休校にしても、大人は仕事に行ってしまいます。大人がウイルスをもらってくることはないのですか。

 3学期の3月。6年生の3月。友達とたくさん思い出を作れる一番楽しい時期なのです。これからぼくたちのクラスでは、みんなで映画をとろうとしていました。それもできなくなってしまいました。家にいてもやることがなく、おもしろくありません。学校に行きたいです。」

納得いく根拠はいまだに示されていないし、悲しい思いをしている子はたくさんいるんだろう。切ない。一方で、「朝日新聞だし、大人が裏にいて子供に書かせているに決まってる」と悪しざまに吠えたてる人の姿も目に浮かぶ。そういうことじゃないだろう。これは「想像力の問題」である。あまりに卑劣な人間を見かけると、思わず涙が落っこちそうになる。

淋しい街から

東京都中央区から急速に活気が消えた。インバウンドさんが来なくなって銀座はガラガラだし、在宅勤務にシフトしたりして日本橋の勤め人の数も少ない。「この際、いつも混んでいてなかなか入れない人気店で昼飯を食べよう」と陳建一の四川飯店に出向いてみた。やはり空いていて、並ぶことなく案内される。もちろん麻婆豆腐を注文した。ランチはどうにかなるのだが、夜はどうにもならず、2時間早く閉店することにしたんだそうだ。この人気店にしてこうだ。体力のない、やっとこさっとこの飲食店がいくつも潰れるだろう。怖ろしいことだ、週が変って世界は一変してしまった…。

我々の愚かしさを笑い飛ばすがごとく

オカメ桜が満開である。今年の啓蟄(けいちつ:大地が温まり冬眠をしていた虫が穴から出てくるころのこと)は5日、明後日だ。20年近く見慣れたこのオカメ桜は、啓蟄のころになるときちんと大きく花を開かせる。フレックスタイムやら時差通勤、みなさんいろいろあろうと思うが、「もうすぐ春ですねぇ」、家からするとひと駅向こうで乗って、勤め先からするとひと駅手前で降りて歩いてみてはどうだろうか?その間だけでもマスクを外してさ。少なくともクサクサした気分は晴れて、頭の中もいくらかスッキリする。もうこの際だ、いっそのことより健康になってやろうじゃないか。ああ、もうすぐ隠居の身。だって、悔しいじゃないか。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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