隠居たるもの、日々に楽しみを重ねるものだ。週に二度から三度は外で、残りの晩は自宅で、日々に一献かたむけている。若い時分と違って、無暗に外で飲みたいとも思わなくなった。また、酒さえあればいいわけでもなく、季節とともに飲みたく思うものや、食べたく思うものも移ろうようになった。気がつくと今年の夏も終わろうとしている。ということは、自宅でビールを解禁しているシーズン(初夏から夏まで)も終わる、ということだ。

蒸し焼きの枝豆とビール

早々に風呂をつかった休みの日の夕刻、ベランダに出てビールを飲む。そんな歓びに目覚めたのは1年前だったろうか。つまみは枝豆で充分。それも茹でたやつではなく、旨味を逃さない蒸し焼きにしたやつ。私が暮らす庵は、すぐ目の前が運河で、南風が気持ちよく吹き抜けるような造りで、夕陽は右手に沈んでいく。だけど今年は、長い梅雨とそのあとに訪れた夏があまりに過酷で、ベランダに出たのは2度ほど…。とはいえ、連日の猛暑がビールへの肉体的欲求を高めるものだから、温度を調えた室内で、結局はビールと枝豆三昧の日々を送っていた。

「とりあえずビール」からの脱脚

お店で飲む“生ビール”は、いつだってたまらない。また、夏のビールはどこで飲んだって美味しい。しかし、自宅の晩酌における通年の「とりあえず」は惰性なのではないか?数年前の晩秋にふとそう思い、ビールをペリエに置き換えてみた。充分だった。 実はビールを欲していたのではなく、食事を始めるにあたり、シュワシュワとノドを高揚させることを必要としていたのだ。それ以来、「自宅ビール」を、健康的な観点からも“季節モノ”としたのである。糖質なしにそろりと始まる晩餐は、ワインの2杯や3杯とともに進み、食後のウイスキー1杯で締まる。だらしなく飲むこともなくなって、気分も爽快。だけれども、慣れるにしたがって、常にワインに合うような肴を食しているわけでもないから、どこか融け合わずに味気なさを感じることもあるにはあった。そんな問題すべてを解決する救世主、それがテキーラだった。

テキーラは青くさくて爽快である

友人に連れられた代々木八幡の蕎麦屋。2年も前にはならない頃だったか。テキーラソムリエに言われるがまま、和食を肴に飲んでいた。合うのである。「日本での誤ったイメージがね…。ストレートで一気に飲んだりしませんよ、メキシコの人は」とソムリエ。ソーダ水で割って飲んだりしているのだそうだ。それはそうだ。あんなに度数の高い酒を、あんな風に飲むまたは飲ませるのは、アホかよからぬ企みを持つ者だけだ。事実に反する真っ赤な嘘を意図的につくトランプ大統領が、メキシコの方すべてが犯罪者であるがごとく悪しざまに罵っていることからも気づくべきだった。彼がそう言うからには、メキシコの人たちはきっと常識人なのであろう。楽しくテキーラとつきあっているはずだ。実際、アガヴェ(竜舌蘭)から蒸留されるテキーラは、とっても青くさく爽やかで、どんな料理とも相性が良い。

テキーラはもはや常備酒

ペリエではいささか趣きに乏しいとき、少量のテキーラを垂らす。途端に香り立ち、酒肴がひきたつ。東洋のテイストが強くて「ワインじゃないんだよな」というとき、そのままテキーラ・ペリエで通す。日曜日にスーパーで見つけた、きびなご一夜干しにも最適だった。そもそも割っていて濃さは思いのままだし、サッパリしているから、「ここまでにしておこう」とスッキリ切り上げられる。テキーラは、唐突に発見された素晴らしき万能プレイヤーなのである。

若い時分の「ビールと焼酎」から40年、日本酒は以前からお店でしか飲まなかったけど、飲酒の履歴書とでもいえばいいのか、思えばそこそこ遠くへ来たもんだ。ああ、もうすぐ隠居の身。この嗜みが途切れず愉快に続くことを。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

2件のコメント

  1. 「テキーラ青臭い」…
    分かる気がします。

    高橋秀年
    1. 鼻の奥からツンと抜ける感じがしますよ。

      sanshu

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