隠居たるもの、設備はゆっくり整える。INKYOシネマズ白馬別館がようやくオープンするに至った。まがりなりにもサラウンドシステムなのである。果たして結果はどうだったか、これがどうして、まがりなりどころか想像を遥かに超えた音響にこれまたしてやったりとほくそ笑む。かかるサラウンド環境を作るためには乗り越えなければならない障壁がある。そう簡単には問屋が卸してくれないのだ。その障壁とは?それはいとも簡単な話で、「前面のAVアンプから後方にも散らばるいくつものスピーカーにどうやってコードを繋げるか」ということに尽きる。

ようやく片づいた階段下の書斎スペース。ここがINKYOシネマズの映写室。

ダイワハウスの天井埋め込みサラウンドシステム

日本のオーディオメーカーONKYOの天井埋め込みサラウンドシステムが、なんとダイワハウスの工事オプションに連なっていた。導入すれば、スペースをとるスピーカーを狭い小屋に設置する必要がない、だからコードの心配をする必要もない。「すべては解決」と期待を抱きながら、建物の設計が固まる頃合いに、これでも好事家のはしくれであるから、意気揚々と裏づけを取るべく調査を開始した。それが設置されている新宿のダイワハウス展示場に出向いて天井を見回してみる。意気消沈した。天井に据えられた五つのスピーカーはどうにも不格好で、さらに加えて平べったい粗末なスピーカーなものだから音も貧弱。35万ほどの費用のほとんどは工事・セッティングに充てられるのだろう、あらためてみると、AVアンプを含めたセットのグレードは考えていたよりずっと低かった。残念だが期待はしぼみ振り出しに戻る。

うっかりすると「技術の進歩」というものはめざましい

今日、前面左右のメインスピーカーの上に設置するイネーブルドスピーカーという類のものがある。8ヶ月前の省察「価格.comとキャッシュレス5%還元のはざまで」(https://inkyo-soon.com/kakaku-cashless/)において、ビックカメラ有楽町店のスピーカーオタクにデンマークのスピーカーメーカーDALIのものを紹介され、八方塞がりで「サラウンド」を断念しかけていた私が「ロッキー」のように再び奮い立たされた顛末を紹介した。これが驚くほどにすごい。最新鋭の演算装置を経てその都度に角度を変えて斜め前方に発される音は、天井のあちこちに反射して空間上で自由に動く。つまり5.1chの後方のスピーカーの役目を果たすばかりでなく、7.1chの真横のサラウンドスピーカーの役目もこなす。家自体が予期せずコンサートホールのようなスペックを持っているのだし、まさに「映画の中」にいるような音像だ。上の写真にある6本のスピーカーがINKYOシネマズ白馬別館のサラウンドシステムのすべてで、コードはラックの中に収まってどこにも這い出していない。だからどこかに埋め込む工事も必要なく、新たに購入したすべてのものを合わせても、ONKYOの天井埋め込みシステムよりずっと安上がりに済んだ。

カーテンボックスにスクリーンが隠れている

厚紙を折って連ねて組み立てた三脚のようなものの先にセンサーマイクを置いて、それを主要な視聴ポイントに固定し、マランツのAVアンプが各スピーカーから順番に音を発して音像テストを実施する。その結果、散種荘用の演算フォームがアンプ内に設定される。だから機器が雑音を拾わないよう細心の注意を払う。それを知らないつれあいが、テストの犬笛のような音をふざけて真似る。「余計な音を出すでない!」といかつい顔で威嚇すると、つれあいはハッと慄き小さくなる。テストが終了してほっとするのも束の間、窓の上のカーテンボックスに隠してある100型のスクリーンをするすると下ろす。Blu-rayプレイヤーを回し、ワイヤレスのプロジェクターを起動する。ドンと音が鳴る。これはINKYOシネマズ深川本館を遥かに凌いでいる。

THE GREAT ESCAPE

新しく揃えた機器たちは、新しいだけあって4Kの映写が可能だ。しかしテレビの電波は引いてないし、インターネットもまだ開通していない。インターネットが開通する12月10日以降の動画配信は、ゆくゆくNetflixを中心にすることにしている。4Kの配信もあるし、なにしろ音を間引きしていない。まあ、そんな野望はその時までのほんの我慢として、今は手持ちのディスクから選んでかける。INKYOシネマズ白馬別館こけら落としの作品は密かに決めていた。つれあいが生まれた年に公開された名作「大脱走」。夫婦ともに好きな作品であるのと同時に、私は原題「THE GREAT ESCAPE」その響きをどうにも愛している。冒頭であのテーマが流れるだけで心が躍る。

今回の滞在中に観たのはその他に「007/スカイフォール」。音響を確認するため近年のアクション映画を試す必要があると考えたからだ。新型コロナ禍でいまだ公開されない最新作はダニエル・クレイグ最後の007で、次回作からの007は黒人の女性だと聞く。「007」はコードネームなのだからして不思議なことではないし、なにしろ痛快でカッコいい。「多様性」ってこういうことを指していうんだろ?一部の人たちを除いた大体の方々は知っていることと思うが…。

もう一本はクリント・イーストウッドが監督して出演、ケビン・コスナーが主演した「パーフェクト・ワールド」。行きがかりでケビン・コスナーに誘拐された男の子がうま過ぎて切ない素晴らしいロード・ムービーだ。

もちろん、INKYOシネマズ白馬別館はあたりもすっかり暗い夜に開館する。私には劇場内でもうひとつ仕事がある。様子を見ながら、薪ストーブに薪をくべることだ。ああ、もうすぐ隠居の身。「山の家プロジェクト」は「THE GREAT ESCAPE」なのである。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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