隠居たるもの、自分でできることなら身体を使う。このふた月というもの、なにはともあれ「山の家プロジェクト」に邁進してきた。プロジェクトは4つの分野に大別できる。①荷物の搬入と整理・調整、いわゆる「引越し」②必要なものの洗い出しと調達③現地を精査した上で「試生活」④自分たちでこしらえるつもりだったものをDIY。当然のこと、もっとも苦労したのは④だ。なにしろこちとら「安易に考えた素人」丸出しで、予定通りにことが運ばずいちいちしょぼくれた。しかし、できているものに合わせたくはないのだ、自分たちに合わせてできて欲しいのだ。ようやく苦心惨憺の果てに予定していたものすべてをこしらえあげた。達成感は半端なものではなく、調子に乗ってここにその全貌を紹介する始末だ。

コメリのキットで薪棚を作る

10月18日、ファイアーワールド永和さんが薪を10箱持ってきてくれた(参照:「薪ストーブに火を入れる」https://inkyo-soon.com/put-a-fire-in-the-wood-stove/)。段ボールにつめられたままのこの「岩手の薪」を、できるだけ早く薪棚に移さなければいけない。テラスに置いたままの箱の中に湿気がこもり薪が燃えにくくなるからだ。そのためには①棚を購入する②大工さんに作ってもらう③自分たちで作る、の中から選択しなければならない。導入したストーブのサイズからして長い薪をうちでは使わない。①の市販の薪棚は、長いサイズをストックすることを前提にしているから散種荘にはすっきりなじまない。②を選択したらいつできるやらわからないし、第一に不用意にお金がかかる。白馬にあるホームセンター「コメリ」には適当な「棚キット」が用意されているというし、自ずと③を試みる。

後部荷台から運転席と助手席の間にまでにゅっと延びた175cmの棚柱4本、薪のサイズに合わせた90cm×25cmの棚板5枚、それらを小さなレンタカーで散種荘に運ぶ。組み立てたのは天気を見計らった翌日の午前。電動ドリルでネジ穴を開け、電動ドライバーでネジを文字通りネジ込む。さすがに「キット」として売られているだけあってこれは簡単だ。あっという間に立派な薪棚ができあがった。薪を並べてみる。「これでこそ山の家」、夫婦で肩をすくめてほくそ笑んだ。

トイレの洗面にタイルを貼る

小さい小屋だけれども散種荘にはトイレがふたつある。寄る年波か、夜中に目覚めてトイレに行くことが多くなった。トイレはひとつということにして、それをリビングのある1階に配置したとしよう、「寝室のある2階から1階に寝ぼけて降りていく中年」という極めて危険な図が浮かぶ。それに友だちが何人かで遊びに来て宿泊することも多々あるだろうし、渋滞がないようトイレは1階と2階それぞれに、合わせてふたつあることが望ましい。昨夏の教訓も生きた。(参照:「タンクレストイレは電気機器だから壊れる」https://inkyo-soon.com/tankless-toilet/)「見てくれ」だけを気にかけて、ふたつとも電気機器であるタンクレストイレにしてしまうと、(森の中だもの)停電があった場合に同時に使えなくなる。「総合的、俯瞰的」に考えて、狭い2階トイレにはタンクレス、玄関土間に設置する広い1階トイレにはタンク式、このように「適材適所」を配置した。1階トイレを土間にしたのにも訳がある。スノーボードブーツや登山靴というものは脱ぐのに大層な手間がかかる。履いてしまった行きがけに、もう一度「用心」しておきたくなることもあるだろう。それらを履いて帰ってきたおりに、激しく切羽詰まっていることもあるだろう。だから土足のまま使えることに拘ったのだ。リビングからは居酒屋のようにサンダルをつっかければいい。そんなだからあえて無骨なスペースにしてもらった。完成させるのは私たちの「腕」だ。

靴も洗える大きな洗面ボウルの周りにD.I.Y.TILEのタイルを貼っていく。余る部分は割ったり切ったりして取り除き、避けられなかった隙間はパテで埋める。toolboxで調達した鉄製のパイプ棚を固定し、株式会社池田元一商店にサイズを伝えて裁断してもらったオークの板にこれまたtoolboxで調達したフックを取り付け、その上で壁に打ちこむ。プライベート空間でゆったり過ごすためのスマホ置きもつけた。最後の仕上げはインターネットで探し出した「のぞきこむだけの小さな鏡」だ。いかばかりか、私たちは「素敵」と自画自賛している。

参照:「雨の中をせっせとホームセンターに出向く」https://inkyo-soon.com/hardware-store/・「toolbox のパーツで挑むDIY」https://inkyo-soon.com/toolbox-diy/

サニタリーに棚を作る

洗面所にもD.I.Y.TILEのタイルは貼ってある。壁が立ち上がったあたりのベージュの列だ。その手前の窪んだ壁につけられた小さな棚、これにはとても苦労した。オークは硬く、狭いスペースでの作業は捗らない。うまくできず宿題のように東京に持ち帰り、壁に固定するための部材を右往左往した末に変更してようやくのこと棚となった。鏡に映っているのはtoolboxで調達した鉄のバー、主にバスタオル掛けとして使う。その上に、やはりtoolboxで調達した棚受け、株式会社池田元一商店に卸してもらったオークの立派な板でタオル類をストックする棚をこしらえた。タオルバーの下に渡した細長い板にはいわくがある。ダイワハウスのミスなのか、それとも私たちのミスなのか、それは定かではないが、予想だにしなかったタオルバーがかかっていたのだ。外してみるとネジ穴を含めしっかりと跡が残る。そのためだけに壁紙を貼りなおすのも大仰だから、いかにも装飾的な感じで板を渡すことにした。ここにフックをつけることも考えたが、タオルを取るときに怪我しても馬鹿馬鹿しいのでやめにした。いかばかりか、私たちは「素敵」と自画自賛している。

「D.I.Y.」 とは 「Do It Yourself」

深川に「リカシツ」という名の店がある。ビーカーとか試験管なんかをインテリアとして小洒落て販売している雑貨屋だ。洗面所の仕上げはここで購入した小さなビーカーとフラスコ、それぞれにコットンと綿棒を収めている。他にも納戸の棚を4枚こしらえたり、私からすると結構なこと「日曜大工」に励んだ。いかばかりか。

第二次世界大戦でナチスドイツから激しい空襲を受けたロンドン、1945年の終戦とともに破壊された街を自分達の手と労力で復興させようという国民運動が始まる。そのスローガンが「D.I.Y.」=「Do it yourself」、今も残る「D.I.Y.」はここから生まれ意味合いが変わったものなのだそうだ。そう、なにもかも他人任せにすることはなかろう。自分でやってみようじゃないか。ああ、もうすぐ隠居の身。きっと、できるさ。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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